幻灯機
幻灯機
17世紀には興業や布教に使われていたと言われている。「ファンタスマゴリア」に発展したのは図像を動かすことができるようになった18世紀から。スライドを複数重ねたり、幻灯機そのものを動かして様々な演出が加えられた。日本にも伝来し、1779年に刊行された手品の解説書『天狗通』で紹介されている。やがて映画の発展とともに全世界的に下火になっていった。
Image by Alphonse de Neuville or A. Jahandier - F. Marion "L'Optique" (1867)
写真術
写真術
1839年にフランスのダゲールが特許を取得したダゲレオタイプが世界で一番最初に普及した写真術。鏡状の支持体の上に鮮明な図像が定着されることが特徴である。1851年にイギリスのフレデリック・アーチャーが発表したコロディオンプロセス(湿板写真)は、ガラス板に図像を定着させる技法だ。湿板写真を用いた幻灯写真(幻灯機用のスライド)が残されている。
photo by Mika Kan(2018)
ペッパーズゴースト
ペッパーズゴースト
1862年にイギリスの王立科学技術会館(現在のウェストミンスター大学)の講師だったジョン・ペッパーが改良した視覚トリック。劇場などで、透明な板ガラスと照明技術を使用し、舞台上にある実際のセットや役者とガラスに写る虚像の「幽霊」を重ねて見せる。観客から見えない位置に「幽霊」役の役者やオブジェを配置し、照明を当てることでガラスに像が反射し、観客からは舞台上に「幽霊」が出現したかのように見える。現代でも、遊園地のお化け屋敷や音楽のライブなどで使用され、擬似ホログラムと呼ばれることがある。
Image by Le Monde Illustré(1862)
鏡と自己認識
鏡と自己認識
1835年に現在のようにはっきりと映る鏡が生産されるようになった。これによって、大多数の人々は初めて自分の顔を鏡に写して鮮明に見ることができるようになった。1858年から写真館を営んでいるナダールは著書の中で、出来上がった写真に対して「これは自分ではない」とクレームが寄せられたことをあげ、自分の姿形に対して主観的なイメージを持っている人々にとって写真に写ったありのままの自分の姿は幻滅をもたらすものだったと書いている。
photo by Mika Kan(2021)
分身
分身
分身やドッペルゲンガー 、双子をモチーフに自己の二重性や自我の葛藤を表現した小説としては、エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』(1839)、『ウィリアム・ウィルソン』(1839)がまず挙げられる。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』(1818)も比喩的に分身を示すとされる。オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』(1890)は、絵画とモデルの関係が分身として描かれる。アドルフォ・ビオイ=カサーレスの『モレルの発明』(1940)は、コピー装置によって人間が実態のある立体映像としてコピーされる。日本では芥川龍之介や、江戸川乱歩らが影響を受けている。
photo by Mika Kan(2021)
万華鏡
万華鏡
1816年にスコットランドの物理学・天文学者のディヴィッド・ブリュースターが発見。灯台の灯りを遠くまで届ける研究をしている最中に、映り合う鏡に模様状に像が見えることを発見した。1819年に日本に技術が伝わり、「百色眼鏡(ひゃくいろめがね)」「万華鏡(ばんかきょう)」「錦眼鏡(にしきめがね)」として親しまれた。装置外の景色が映り込むテレイドスコープは、望遠鏡(テレスコープ)と万華鏡(カレイドスコープ)が合わさったもの。本作《分身万華鏡》は、人工水晶を使用した自作の遠華鏡を用いて撮影した。
photo by Mika Kan (2021)
光
光
20世紀初頭まで、空気中にはエーテルという物質が充満しており、光はそのエーテルを伝わる振動だと考えられていた。1666年にニュートンがプリズムによって白色光を分光し、発現した虹色の帯をスペクトラムと名付けた。これはもともと、ラテン語で「亡霊」や「幻影」を意味する言葉である。エーテルの存在が否定されるまでの間、写真はスペクトラム(魂の構成要素)の一部を吸い取り定着させるものというスピリチュアリズム的な解釈がなされることがあった。
photo by Mika Kan(2021)
人造人間
人造人間
古くから、人型の人工物を作り出すという物語が見られる。ギリシア神話のピグマリオンは、彫像に命が宿る。機死体の継ぎ接ぎを生き返らせる『フランケンシュタイン』(1818)、機械仕掛けの人造美女を作り出す『未来のイヴ』(1886)、聖女のような女性マリアをコピーして作られるロボットが登場する映画「メトロポリス 」(1927)、同作でマリア(ロボット兼)役だったブリギッテ・ヘルムが、人工授精によって生まれた怪物的な女性を演じる「妖花アラウネ」(1927)など。
photo by Mika Kan (2021)
人形写真
人形写真
バウハウスのモホリ=ナギが『絵画・写真・映画』(1927)で人形をストレートに撮影することでモノでありながらも生命を感じさせるという表現効果を取り上げて以来、著名な写真家が取り組んでいる。どれも人間と人形の見分けがつくことが前提となっている。
本展覧会と同じ「あなたを離さない」シリーズの、スマートフォンアプリを使用した作品《#selfiewithme》(2020)では、人間と人形の見分けのつかない鑑賞者が続出した。
photo by Mika Kan "#selfiewithme 004"(2020)
分光
分光
本作《眼の中の光》のグラスアイと、《ステイ パラダイス》《パラダイス シフト》内のペッパーズゴーストの映像の中で身につけているアクセサリーはダイクロイックガラスを使用して作られている。ダイクロイックガラスは、ガラスの片面に金属を蒸着させたもの。光の角度によって反射される色相が変わり、特定の固有色ではなく様々な色味が見える。(作中で使用したグラスアイ、アクセサリーは大鎌章弘氏の作)
photo by Mika Kan(2021)
インフィニティミラー
インフィニティミラー
ハーフミラーを合わせ鏡にして、内側に光源を置くことで、内側のオブジェが反復して無限に続いているように見える。万華鏡とペッパーズゴーストが応用されている。19世紀の時点でジョン・ペッパーが原理を解明しているが、実用化されたのはLEDライトが普及した1990年代以降である。
photo by Mika Kan "The Light in the Eye"(2021)
クローン
クローン
1997年に世界初の哺乳類の体細胞クローン技術によって羊のドリーが作り出された。創作物もその影響を受け、クローンを題材にした映画が数多くつくられた。『エイリアン4』(1997)、『シックス・デイ』(2000)、『アイランド』(2005)、『月に囚われた男』(2009)、『わたしを離さないで』(2010)、『オブリビオン』(2013)などがある。
photo by Mika Kan (2020)
展覧会タイトル
展覧会タイトル
前から読んでも後ろから読んでも同じ、回文になっています。「の」を中心に反射する鏡のようなイメージです。「仮想」には、「仮定としての想像」と「バーチャルの」という意味があります。作品は「もしそうだとしたら」と想定して表現する「嘘」なのでしょうか?あるいは写っているものはデジタルで改変された「嘘」の姿なのでしょうか?終助詞の「か」は疑問だけでなく反語も表します。疑問ならば「仮想の嘘か?」ですが、私はハテナを付けませんでした。願わくば「仮想の嘘か(いや、そうではない)」と読むことが可能であってほしいです。
「パラダイス」
「パラダイス」
私は現在、千葉県松戸市にあるアーティスト・イン・レジデンス(AIR)「パラダイスエア」の一室をスタジオとして借りて作品制作をしています。元々ホテルだったビルを活用しているため、部屋の内装がそのまま活かされています。そこに自分で家具や機材を追加して、作業しやすいスタジオに整えていきました。
ステイ パラダイス
ステイ パラダイス
コロナ禍で出された「ステイホーム」の宣言は、私にとってはスタジオに一人で籠もって黙々と制作する「ステイパラダイス」を意味しました。人間と直接会うことを極力避け、代わりに人形とずっとに一緒にいた結果、型取りから3年目にして、たまに話しかける間柄になりました。
パラダイス シフト
パラダイス シフト
ビルの1Fはパチンコ「楽園」で、そこからレジデンスが「パラダイス」と名付けられました。「楽園」から追い出されれば生の苦しみを負うのでしょうか。だったら、私はここに居続けるために自分自身も変質させようと考えました。こだわっていた写真作品から飛び出し、インスタレーションやデジタル合成を駆使した映像に取り組んで、当たり前を更新していくことが必要でした。《パラダイス シフト》内の黒い箱は、「ペッパーズゴースト」をモニターで再現したものです。「人間とは何か」を探究し、自分自身も変質させた結果、パラダイスの「ゴースト」は人間と人形のあいだにいる何かになりました。